いまさら聞けない５フォース分析について
5フォース分析は、経営環境や競争の関係を調べるのに重要なツールの一つです。マイケル・ポーターによって提唱された経済学を源流とするこの分析は、企業が自社の競争環境を理解し、競争優位性を築くために用いられます。
以下に、5フォース分析の要点を中小企業経営者向けに解説します。
5フォースの5つの要素
▼新規参入の脅威（新規参入の力）
経営者は自社業界に新たな競合他社が参入する可能性を考慮する必要があります。新規参入の脅威が高まると、市場シェアの確保が難しくなります。この脅威を低減するためには、ブランド力や独自の技術、規模の経済を活かしたコストメリットなどの要素を強化し、新規参入を抑止する必要があります。
▼供給者の交渉力
供給者が自社よりも強い交渉力を持つ場合、原材料やサービスの価格や条件をコントロールされる可能性があります。経営者は、主要な供給者が独占的な地位にあるか、代替品が少ないかを評価する必要があります。供給者とのパートナーシップを築き、複数の供給源を確保するなど、交渉力を向上させる戦略が求められます。
▼顧客の交渉力
顧客の存在とその交渉力は、企業にとって重要な要素です。競争が激化している場合、顧客はより多くの選択肢を持ち、価格交渉の余地が生じる可能性があります。経営者は、顧客満足度向上や独自の提案を通じて、顧客の愛着度を高め、交渉力を確保する方法を模索する必要があります。
▼代替品の脅威
代替品の存在は、企業にとって市場シェアの脅威となります。代替品が利用可能で、価格や品質が競合他社より優れている場合、顧客は切り替える可能性が高まります。経営者は、自社の製品やサービスの差別化や独自性を強調し、代替品の脅威を低減する戦略を策定する必要があります。
▼競争激化の度合い
業界内の競争状況を正確に把握することが不可欠です。同業他社との差別化や強み、競争力を保つための取り組みが求められます。また、市場シェアや新規参入の威嚇などを考慮して、持続可能な競争優位性を築くための戦略を検討することが重要です。
中小企業経営者はこれらの5つの要因を把握し、適切な対策を講じることで、変化する市場環境に適応し、企業の成長を促進させることが求められます。
では５フォース分析のメリット、デメリットについてみていきましょう。
5フォース分析のメリット
▼環境の理解
企業の外部環境を包括的に理解するのに役立ちます。競争環境や市場構造を把握し、経営者が戦略を立てる際に基礎となる情報を提供します。
▼競争優位性の発見
各フォースに焦点を当てることで、企業がどの分野で競争優位性を構築できるかを発見するのに役立ちます。競争上の弱点を理解し、戦略を最適化する手助けとなります。
▼リスクの最小化
新規参入や代替品の脅威を明確に把握することで、リスク管理が可能となります。経営者はリスクを最小限に抑えるための対策を講じ、企業の安定性を向上させることができます。
▼意思決定の基準
戦略的な意思決定をする際に、5フォース分析は客観的で具体的な基準を提供します。経営者は客観的なデータに基づいて判断を下しやすくなります。
▼戦略の調整
外部環境が変動する場合、5フォース分析は変化に迅速に対応し、戦略を調整するための指針を提供します。これにより、企業は瞬時に変化する市場に適応することができます。
5フォース分析のデメリット
▼単純化させすぎると危険
5フォース分析は外部環境をいくつかの要因に分解し、それぞれに評価を与えるものです。しかし、これが単純化されすぎると、現実の複雑な状況を見逃す可能性があります。
▼未来予測の難しさ
5フォース分析は主に現状の評価に焦点を当てていますが、将来の変化や新たな要因の発生を予測することは難しい場合があります。とくにVUCA時代と言われるこの時代にあっては予測をする内容がさらに複雑になっています。
▼データの不足
分析に必要なデータが不足している場合、正確な評価が難しくなります。特に中小企業ではデータ収集が難しいことがあるため、その限定的な情報源に頼ることがあります。
▼産業固有の制約
5フォース分析はあくまで一般的な指針であり、産業によっては適用が難しい場合があります。特に急速な技術変革や新興産業の場合、その制約が顕著になります。
▼戦略の過度な焦点
5フォース分析に過度に依存すると、他の戦略的視点が欠落する可能性があります。企業は市場だけでなく、内部プロセスやリーダーシップの側面も考慮する必要があります。
経営者はこれらのメリットとデメリットを理解し、5フォース分析を慎重に活用することで、より効果的な戦略立案が可能となります。
5フォース分析に加わる新たなプレーヤー「補完財」
5フォース分析では、主に新規参入の脅威、供給者の交渉力、顧客の交渉力、代替品の脅威、競争激化の度合いといった要因が取り上げられますが、これに加えて「補完財（Complementary Goods）」というプレーヤーが存在します。補完財は、他の商品やサービスと組み合わせて使用されることで価値が高まる財やサービスを指します。
補完財の例をあげると、ECサイト運営企業の補完財は、物流会社になります。物流会社の配送スピードの改善や、置き配ができるようになることで、ECサイトで商品を購入してから手元に届くまで消費者の利便性が向上し、ECサイトへの売上増加が見込めるようになります。
補完財は、競争環境や市場構造に影響を与える要素となり、5フォース分析においても重要な考慮事項です。以下に、補完財が各要因に与える影響を見てみましょう：
▼新規参入の脅威
補完財が存在する場合、新規参入の脅威が低減する可能性があります。競合他社が同時に提供する補完財やサービスがあると、市場への進出が難しくなります。これにより、既存企業は一定の市場シェアを確保しやすくなります。
▼供給者の交渉力
補完財が供給者によって提供される場合、供給者の交渉力が強まる可能性があります。供給者が不可欠な補完財を提供している場合、企業はその供給者に依存することになり、交渉力が低下します。
▼顧客の交渉力
逆に、補完財が顧客によって提供される場合、顧客の交渉力が高まる可能性があります。顧客が不可欠な補完財を持っている場合、企業はその顧客の要求に応じざるを得なくなります。
▼代替品の脅威
補完財が存在する場合、代替品の脅威が低減する可能性があります。競合他社が同様の補完財を提供できない限り、補完財を持つ企業は代替品の脅威に対して強固なポジションを築くことができます。
▼競争激化の度合い
補完財が存在する場合、企業間の競争は補完財の提供や組み合わせ方に焦点を当てることがあります。これにより、競争激化の度合いが変動する可能性があります。
補完財の存在は、市場や産業において相互依存関係が形成されることを示しています。経営者は5フォース分析の枠組みにおいて、補完財の存在や影響を考慮し、総合的な市場理解を深めることが求められます。
まとめ
このように5フォース分析は状況の理解と将来の展望を見極め、競争力を維持・向上させるための有益なツールとなります。このツールの特性を理解し、事業機会を向上させましょう。
