Plusone648
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自分が関わっているものに価値を見出すボルネオゾウの保護活動に力を入れる理由まえという考えにならないかもしれません。わざわざビオトープのようなハードルの高い取り組みをしなくても、日常の中でいろいろな生き物と一緒に生きる方法はたくさんあるのです。動物園は特定の色に縛られない立場なので、さまざまな組織、団体を巻き込みながらいろいろな活動ができます。環境は生き物の集合体なので、たくさんの動物を飼育している動物園こそ環境や生物多様性の保全のプラットフォームになれると思っています。上田 廃園の危機から限られた予算の中でさまざまな取り組みを進め、多くの支持を集めてきた経緯は、中小企業に大きな勇気を与えてくれます。坂東 旭山動物園が市立の動物園だというと驚かれます。自治体がバックにあると普通はリスクを冒したくないのでよその成功例をまねるのが精一杯です。ところが旭山動物園は全くオリジナルで新しい試みをしてきました。うちにはどこにでもいる動物しかいませんし、職員も何か特別な人間を集めているわけではありません。根底にあるのねをしていますが、いまだにうちを超える「ぺんぎん館」は見たことがありません。なぜならハードを支えるソフト、すなわちそこに携わるスタッフの力があるからです。動物たちと関わって日々見つける新たな発見を形にしていっているので、「ぺんぎん館」の中のレイアウトはどんどん変わっていますし、中の説明看板はほぼすべて1年に1回リニューアルしています。来園者もその変化を感じて楽しんでくれているのだと思います。上田 ついてどのようにお考えでしょうか。坂東 を禁止しており、南米では霊長類ヒト科の動物(チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなど)の飼育を禁止しています。それがよいか悪いかは別にしても、動物を人間のエゴで作った場所に閉じ込めているということに対する原罪は背負い続けないといけません。ただ、私たちは10年後に人間社会がどのような生命観を持っているのかを考えながら、言われたことに対応するのではなく自分たちの方から新たな価値観を発信していきたいと考えています。これからの動物園が果たす役割に例えば、欧米では鯨類の飼育展示特にこれからの環境問題や生物多様性を考えるときに動物園がないとできないことが無限にあります。例えば、旭山動物園ではマレーシア・サバ州で絶滅の危機に瀕しているボルネオゾウの保護活動に力を入れており、森林伐採や農園開発によって生息地を追われたボルネオゾウを一時的に保護する施設の建設などの支援を行っています。JICA(国際協力機構)からのサポートを受け国内の他の動物園とも連携するなど活動は広がりを見せています。例えば、皆さんのまわりでスズメが巣を作っているとします。スズメのヒナは卵がかえってから2週間で巣立ちますが、その間に親のスズメは2千数百回もエサをヒナに運びます。運んでいるのは虫です。皆さんの身近に虫はいます。そういうことを知っていたら、虫が生息している空き地の雑草が邪魔だから除草剤で根こそぎ消してしは、どうすれば動物をより生き生きさせてあげられるか、それをどのように伝えようかという思いだけです。自分が関わっているものに価値をどう見つけられるか、それが大事だと思います。2006年には来園者が300万人に達し、今は140万人ほどで落ち着いていますが、それでも廃園の危機にあった頃の26万人と比べると5倍以上に増え、人件費を入れてもおおよそ収支均衡で運営ができています。幸い、ふるさと納税や企業からの寄付というかたちで応援してくださるところも増えています。そうした方たちとWin‒Winの関係を築きながら、常に10年先を見据え、動物園の新たなあり方を提示していきたいと思います。上田 誰しも日々のお仕事や人との関わりがともすれば惰性になってしまうこともあるかもしれませんが、今日は、日々の仕事の中に新たな価値を見出すことの大切さを学ばせていただきました。また、命の価値に差をつけていないかという問いかけがありました。私たちの生活においても、格差をつけることなく、すべての方々に真摯に向き合っていきたいと改めて感じました。本日はありがとうございました。6 木の上のエサを求めて、軽快に登るヒグマ

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