軸さえ守れば後は自由に、の「串団子集団」を読み切って、そのための環境をつくっていくことが自分の仕事だと感じて形にしていったところ、それが「行動展示」と呼ばれるようになりました。上田 園内には手作りの看板が多く見られます。飼育員の個性を尊重する組織文化があるように感じます。坂東 旭山動物園に入ってきたスタッフはさまざまな経歴を持っていますが、動になりました。まずネコ科の集まる「もうじゅう館」から取りかかりました。建て替えなので新規動物の導入はないのですが、「つまらない」を「凄い」「素晴らしい」にするチャンスだと思いました。自分の飼っているネコだったら寝姿に癒やされるのに、動物園でヒョウが寝ていたらつまらないと思ってしまう。その差は何だろうと考えたときに、日常の営みを共有できているからこそ、ふと寝ている姿を見て優しい気持ちになれるのではないか、と。ならば日常を見せればよいと考え、ガラス越しに見るのではなく、来園者の頭上に檻をせり出し、ヒョウがのびのびと休めるように設計しました。ヒョウの目線を人間より上に置くことでヒョウは萎縮することなく、本来の姿で生活できるようになるのです。ヒョウと目が合う迫力が味わえると来園者が押し寄せました。私自身は来園者が増えた喜びより、飼育して動物の命を預かっている者として初めて動物に恩返しができた気がしました。館でラッコが人気を博し、多くの来園者が「かわいい」と熱狂していました。あるとき、旭山動物園のアザラシをじっくり見ている小学生に、引率の先生が「ただのアザ1990年代は、全国の動物園や水族ラシじゃないか」とその場を早く離れるよう促す様子を見て、いつかきっと見返してやろうと思いました。その後、「あざらし館」を作るチャンスに恵まれました。アザラシが持つ「水中で垂直に移動する」という習性に注目し、その能力を最大限に引き出すために、巨大な円柱水槽を設けました。アザラシは、ネコがネコジャラシを追いかけるように、動くものを追いかける習性があります。水槽の向こうに見える人間をネコジャラシに見立て、円柱水槽をアザラシがスイスイと泳ぐ姿が来園者を驚かせました。動物の本能が目覚めて解放される瞬間物園に入って初めて動物と真剣に日々向き合うことになります。動物は欲を持っていないので、こちらがいい加減に向き合えばそれに見合った結果しか得られませんし、思いを押し付けようとしてもうまくいきません。そのような経験を積むと、人に対する接し方、社会に対する考え方もおのずと育っていきます。今、匿名のSNSでの誹謗中傷に象徴されるように、自分の言動が相手にどう返ってくるのかを感じ取る力が失われています。その結果、人間どうしがぎすぎすし、自分だけが正義だと思い込んで関係性が作れなくなっているのは、他の生き物と真剣に関わっていないからではないでしょうか。自分の態度がどれだけ相手を傷つけるのか、自分のいい加減さがどれだけ結果として返ってくるのかを感じる機会がどんどん少なくなっているような気がしています。私は「動物を擬人化しません」「動物の尊厳は絶対傷つけません」「人の基準で興味、関心を引くことはしません」という軸を守ってさえいれば、何をやってもいいと伝えており、それぞれの形は違っても軸が貫かれたチームという意味で私はそれを「串団子集団」と表現しています。みんながギザギザのまんまで噛み合ったときの強さをずっと追い続けてきたのです。旭山動物園の「ぺんぎん館」はできてから25年ほど経ち、他の動物園もどんどんま5上田 良子 (うえだ よしこ) ティグレ連合会 理事長大阪府松原市出身。ティグレ創業者・上田卓三の長女。2001年にティグレに入社後、大阪本社人事部にて人材管理や採用に携わる。2017年から始まったティグレグループのダイバーシティの取り組みでは、事務局の責任者として、働きやすさを重視した組織改革を進める。2025年に理事長に就任し、ティグレ連合会の中心人物として、各界とティグレをつなぐ役割を果たしている。S P E C I A L
元のページ ../index.html#5