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「ここで生きていく建築」になってほしい住宅からパブリックスペースまで多彩な用途に応用可能光合成パネルは、住宅の屋根はもちろん、壁、窓、ひさし、手すりなど、建築エレメントとして快適な居住空間を作ります(図4)。もし、集合住宅なら、ひさしに光合成パネルを使うなどして、大容量の生活用電力を得ることもできます(図5)。さらに、住宅以外に目を向けると、バス停や駅舎で利用して、電光掲示板の電源に使ったり、パブリックスペースに設置して、非常時のスマホ充電などに応用できたりもします。将来、大きな光合成パネルの製作が可能になれば、高速道路の遮音壁などにも利用でき、美しい緑色が街並みに映えるし、それだけ大きくなれば、相当の発電量が得られるものと期待されます(図6)。「『光合成建築』が実用化されたら、今まで『建てる』だった建築が『植える』という概念にシフトしていくのではないかと思います」と、川上教授は語ります。「例えば、建物を建てるために、自生していた樹木を切らざるを得なかったとしても、『光合成建築』によってもう一度、その土地に建築を植えることができるのではないでしょうか。『ここに生きていた植物』と同じように、『ここで生きていく建築』になってほしいという願いを込めてこの表現を使っています」。「『光合成建築』は、次世代に残すべきエネルギー、次世代に残すべき空間、次世代に残すべき心のゆとりにつながる、50年・100年先を見据えた研究テーマです。まだ生まれたばかりで、これから成長していくテクノロジーなので、まずは広く知ってもらうことが課題。『PlusOne』の読者の皆さまにもぜひ興味を持って応援していただけたらうれしいです」と、松尾教授は希望を込めて締めくくってくださいました。 編集長が注目する、挑戦の最前線Editor's Pick2025年8月、大阪 · 関西万博にて展示された16枚の2025年8月、大阪 · 関西万博にて展示された16枚の「光合成建築」プロトタイプパネル「光合成建築」プロトタイプパネル図6 光合成パネルによる高速道路遮音壁図4 建築エレメントの具体例図5 光合成パネルによる集合住宅のひさし摂南大学 理工学部 住環境デザイン学科 教授 川上比奈子 1986年、京都工芸繊維大学工芸学部住環境学科卒業。同大学大学院修士課程、博士後期課程を修了。博士(学術)。建築研究所アルセック、夙川学院短期大学を経て、2009年から摂南大学にて教授。おもにアイリーン·グレイをはじめ近代の優れた建築家の空間概念に関する研究、グレイとパリで協働した菅原精造と稲垣吉蔵の功績を再考する研究を主に行う。近年は、生命科学科の松尾教授と共同で「光合成建築」に関する研究にも取り組んでいる。主な著書に『モダニズム再考』『作家たちのモダニズム』など。28

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