学科を超えた、異分野融合プロジェクトCO2を出さないで燃料電池用の水素を作る葉緑体溶液の作り方と発電量 光合成で電気を作るという発想は海外にもありますが、2017年、世界に先駆けて、光合成を利用したLEDの点灯に成功したのが摂南大学理工学部生命科学科の松尾康光教授です。川上教授は学内の懇親会で松尾教授と出会ってそのことを初めて知りました。ちょうど自分の研究室で「建築が光合成をできたらおもしろいね」という話をしていた矢先のことで、松尾教授の世界初の発明と、自分の専門である建築デザインを融合させて「発電する建築物」の開発に一緒に取り組めないかと意気投合。異なる学科にもかかわらず共同で研究プロジェクトを始めることにしたのです。「たとえ同じ大学でも他学科の先生が何を研究されているか知らないことも多い。こういう融合研究は珍しいことで、新しいアイデアを生み出すためには、異分野の研究者同士のつながりも大事だということがよくわかりました」と、川上教授はプロジェクトの意義を振り返ります。では、「光合成建築」のしくみを簡単に見てみましょう。これは、学校の理科実験で学んだ、水を電気分解して水素と酸素を作るのと逆のやり方。つまり、水素と酸素を混ぜることで水と電気が発生する「燃料電池」のしくみを使います。水素さえあれば空気中の酸素を利用して、CO2を出さずに電気を作ることができます。そこで、松尾教授は生物を使って水素を作ることができないかと植物の光合成を利用した燃料電池を研究。葉緑体に含まれる「PSⅡ」という物質が、光に当たると水を酸素と水素に分解する性質を使って、野菜から「PSⅡ」を抽出し、光合成でできた水素イオンと電子を電極で取り込むことで、電気を発生させることに成功したのです(図2)。光合成建築に使う溶液の作り方はとてもシンプル。パネルに入れる植物は野菜でも雑草でも何でもOKです。それをすりおろして水を入れ、洗剤などに含まれる界面活性剤を加えてパネルに流し込み、電極をつなぐと電気が発生するのです(図3)。発電量は4m×4mのパネルで約20ワット。また、電気とともに酸素も生成され、ケヤキの街路樹1本分と同じ役割を果たします。作られた葉緑体溶液は約2か月間発電し、色が薄くなってきたら新しい溶液を入れ替えるか追加していきます。摂南大学 理工学部 生命科学科 教授 松尾 康光1990 年、東京理科大学理学部応用物理学科卒業。同大学院にて修士課程修了後、帝京平成大学助手を経て、東京理科大学にて博士(理学)を取得。同大学理学部応用物理学科助手、摂南大学工学部数学·物理系教室准教授を経て、2010年より同大学理工学部生命科学科教授就任。専門はバイオエネルギー、環境技術 · 環境材料、生物物理、機能物性化学。環境にやさしい次世代水素エネルギーを研究し、環境負荷のないバイオマテリアルを利用した水素生成法や燃料電池電解質の研究分野で数多くの論文を発表している。図3 葉緑体溶液の作りかた図2 光合成燃料電池の構造27
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