Plusone632
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もう1つの目標がW杯の日本開催だったのですね。や子どもたちに見てもらい夢を与えるために、W杯をぜひとも日本に招致したいと考えましたが、これは並大抵のことではありませんでした。ラグビーW杯は白人を中心とした「宗主国」と呼ばれる8カ国(オーストラリア、ニュージーランド、イギリス4チーム、南アフリカ、フランス)の間で順番に開かれてきたので、極東アジアの国での開催などどこも取り合ってくれず、夢のまた夢でした。そこで、レフェリー時代に親交を深めた各国の理事仲間たちに、「グローバリゼーションの流れの中で、世界人口の6割を占めるアジアでW杯を開催しなければラグビーは世界に取り残され、オリンピックの競技種目に選ばれることもないだろう」と説いてまわり、少しずつ賛同者を増やしていったのです。こうして2003年から粘り強く行っていた活動が実を結び、粘り強い交渉で、アジア初のW杯を招致日本は予選リーグで全敗し、このままでは日本のラグビーが消滅するのではないかと危機感を抱きました。そこで、2002年に協会の専務理事に就任したことを機に2つの目標を掲げました。1つは、強いチーム同士で戦い、切磋琢磨していく「トップリーグ」の創設です。ラグビーは強い者同士で戦わないとレベルが上がらないと考え、翌2003年に私がチェアマンとなって立ち上げたのが「トップリーグ」でした。これが功を奏して選手のレベルアップが進み、2007年W杯ではカナダと引き分けるくらい強くなり、さらに2015年のW杯では過去2度の優勝を誇る世界ランキング3位の南アフリカを日本が破る大金星を挙げるまでに成長したのです。そうです。海外の最高峰の試合をファン遂に2019年のW杯招致に成功。7人制ラグビーが2016年のリオ五輪で競技種目に選ばれたのです。W杯日本大会は大成功でしたね。招致したのはよかったけれど、日本戦にしかお客さんが集まらないのではないかと心配していました。でも、蓋を開けてみると、すべてのチケットがほぼ完売しました。それだけでなく、強くなった日本代表が予選リーグで全勝し、ベスト8に勝ち残るという驚異の大進撃。日本の実力を世界に知らしめるとともに、日本人のファン層もぐんと拡がりました。さらに、日本へ観戦にやって来たたくさんの外国人を日本贔びき屓にしたことも大きな成果でしょう。日本人は優しくて親切、また、治安もマナーもよいということでリスペクトされるようになりました。トップリーグ創設とW杯招致はクルマの両輪だったし、その2つの目標が実現できて本当によかったです。高校時代から今日までラグビーに関わってきて、ラグビーが社会に果たす役割とは何だと思いますか?ラグビーには「仲間を作る」「仲間のために自分がいる」という精神が息づいています。お互いを大事にし合おうという意味で、人間形成に繋がるスポーツ。仲間と一緒だから、大きな目標に向かって力を発揮することが い できるのです。自分がヒーローになるのではなく、譲り合っていく。だから、勝者は驕おごることなく、「自分たちが勝てたのは相手をしてくれたあなたたちがいたからだ」と試合後にエールを交換するのです。社会に果たす役割と言うには大げさかもしれませんが、互いに牽けい制し合って対立するのではなく、競い合ってともに育っていこうというラグビーの精神が、社会にもっと浸透していってくれたら嬉しいです。 んせ公益財団法人 日本ラグビーフットボール協会顧問・会長特別補佐、元副会長、専務理事元ラグビーW杯日本招致委員会委員長真下 昇 (ましも のぼる)1938年東京生まれ。群馬県立高崎高等学校、東京教育大学で、チームの司令塔となるスタンドオフとしてプレー後、社会人クラブチームへ。現役引退後は日本協会公認レフェリーとして、国内の主要試合および国際試合で活躍。レフェリー引退後、1992年に日本協会理事、2002年専務理事を歴任し、2007年にアジア協会選出IRB理事に就任。2019年ラグビーW杯の日本招致を成功に導いた。こうした長年にわたる功績により、2022年秋の叙勲で旭日小綬章を授与された。33

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