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中小企業も特許を出願しやすい環境になっているなり、事業継続に大きなダメージを受ける可能性があるのです。特許を保有するメリットはほかにもありますか?社から訴えられたとしても、別の特許侵害で訴訟相手に反撃できる可能性も大きくなります。つまり、特許侵害で相手を訴えれば、逆に相手から反訴される怖れがある状況をつくっておけば、他社から攻撃されにくくなるのです。いま大企業同士で特許侵害訴訟があまり起きないのは、相手を訴えると自分たちも訴え返される怖れがあるからです。攻撃は最大の防御と言いますが、守りの手段としても、特許を少しでも取っておくことが経営を安定させる砦として重要なのです。自社の特許保有数が多ければ、たとえ他積極的に申請してみてはいかがでしょう。特許取得のいちばんの効果は同業他社の追随を防ぎ、大企業との交渉力を高められることですが、さらに言うと、企業価値を高める効果も見逃せません。特許を保有していることで、取引先や金融機関からの信用度も高まるのです。日本の中小企業の割合は99%と非常に大きいのに、特許の取得率は非常に小さい。日本の国力を増していくためにも、中小企業が特許制度を利用して強い力をつけられるよう期待しています。特許を取らずに何もしないでいるだけで、経営リスクが発生するということですか?例えば5年ほど前に、クラウド会計ソフトサービスを提供するA社が、同様のサービスを行っているB社を特許侵害で訴えた裁判が話題になりました。両社のサービスともユーザーから高い評価を受け、事業は順調に成長していたのですが、A社は特許を積極的に取得しており、一方のB社は特許取得にはそれほど前向きではありませんでした。そんな中で、類似のサービスを巡って、B社はA社に特許侵害で訴えられたのです。このように、同じ業界で同じような事業を行っている会社が競合している場合、特許を取得して自社の技術やサービスを積極的に囲い込もうと考えている会社と、特許に関心を持たずに、純粋にサービス向上に集中している会社とでは、いざ特許を保有する競合企業から訴えられたら、それまで培ってきた技術・サービスが使えなく自社の技術の中で、特許を申請できそうなものがあるかどうかを、どのように見つけたらいいのでしょうか?特許を出願するということは、自分たちの強みが何かを発見するプロセスでもあります。どこを強くすれば同業他社より評価してもらえるかという視点で自分たちの事業内容や技術力を定期的にチェックし、他社がやっていない分野を真似されないためにはどういう特許を押さえておく必要があるかを考え、将来の成長の芽を他社に摘まれないようにしましょう。とくにグローバル化が進展する今、海外企業は特定の分野に研究開発リソースを集中投入することで、先鋭的な製品・サービスをもって日本市場に参入し、日本企業を淘汰しようとしてきます。とりわけIT分野ではこのことがすでに起きており、日本の中小企業も特許を武器として意識的に攻めと守りを強化し、現状を変えていくことが大切です。中小企業の場合、特許の出願や維持に多額の費用がかかるのではないかと心配です。今は中小企業の特許出願を促進するために、特許庁が出願手数料の減免制度を導入しており、以前に比べると特許の申請や維持の負担はかなり軽くなっていますから、 33日比谷パーク法律事務所 弁護士・弁理士上山 浩1981年京都大学理学部卒業後、富士通㈱にて大型コンピュータ・ソフトウェアの開発に携わる。90年野村総合研究所に移り、情報戦略に関するビジネスコンサルタントに。98年司法試験合格、2000年弁護士・弁理士登録、03年日比谷パーク法律事務所パートナー。13年個人発明家・齋藤憲彦氏が発明した技術がアップル社のiPodに無断使用された特許侵害訴訟で、同氏を勝訴に導き脚光を浴びる。著書に「弁護士が教えるIT契約の教科書」(日経BP社刊)がある。

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