Plusone630
17/36

創業社長であるAさんが経営する会社は、家族一丸となって事業を進め、業績は好調で、株価も上昇傾向にありました。しかし、相続税対策として、Aさんからご家族へ株式を暦年贈与してきたため、分散してしまった会社の議決権が問題となりました。Aさんと奥様は70代後半と高齢のため、株式の凍結も心配です。そこで、議決権集約のための家族信託を行うことにしました。例えば、株式を後継者に信託するということは、保有している議決権を後継者にすべて渡すことを意味します。しかし、Aさんとしては自身の認知症対策も必要ですが、まだ会社経営に携わり、徐々に後継者に決定権を渡していきたいと考えていました。そこで、受託者として一般社団法人を設立し、理事・社員として、Aさんと奥様、長男と次男が就任することにしました。そして、株主であるご家族がそれぞれ委託者となって株式を信託し、会社の議決権をすべて受託者である一般社団法人に集約したのです(図2Aさんの事例)。こうすることで、分散した議決権を集約でき、さらにAさんが元気なうちはAさん自身が中心となって経営し、認知症の発症などにより業務執行できない状態に陥ったときは後継者に議決権を譲るという条件付きの仕組みが出来上がりました。また、配当金など会社から経済的利益を受け取る権利(受益権)は株主のもとに残るため、信託組成時に贈与税や譲渡所得税は発生しません。そのため、Aさんとそのご家族はまとまった資金を準備することなく、認知症対策と議決権の集約を実現することができました。家族信託を認知症対策の手法と捉えたとき、個人であれば高齢期に入ってから検討を始める傾向にあります。しかし、経営に携わっている場合、万が一に備えて早めに対策をされる方も多くいらっしゃいます。家族信託を活用すれば、思い立った時に事業承継・認知症対策の仕組みを作ることができます(図3株式を信託するメリット)。ご家族みなさまの安心を守るため、事業承継対策のひとつとして、家族信託をぜひご検討ください。社長Aさんの事例家族信託による認知症対策と議決権の集約最後に①会社の議決権を受託者に移すことができる。万が一、経営者が認知症になっても、会社の経営に支障をきたすことがなくなります。②株式の配当を受け取る権利は受益者に残すことができる。配当を目的として株式を保有している株主の合意を得やすく、自社株式の買取資金や贈与税が発生しません。③将来の事業承継先について決定できる。信託契約の中で自社株式の承継先を定めておくことで、認知症対策と同時に事業承継対策ができます。ティグレニュースAさん長男受託者 兼 受益者奥様次男株式の議決権のみ信託する17梶原 隆央(司法書士)トリニティ・テクノロジー株式会社東京都港区新橋2-1-1 山口ビルディング1階図 3図 2株式を信託するメリットAさんの事例TIGRE NEWS

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る