Plusone629
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前号までは法改正の内容や法律の概要をお話しさせていただきました。今回は労働者と会社(使用者)との間でトラブルが生じたとき、どのような対応が必要であるのか、具体的な実務対応をお話しさせていただこうと思います。労使間トラブルの代表例として「解雇」や「懲戒処分」の正当性(妥当性)を争うことや、未払い残業代請求事件などが挙げられます。(スライド①)明らかに労働者に問題があるケースであっても、争いになったときに会社側の主張を証明する「証拠」がないことで、結果として会社側が経済的負担を負う場合があります。なぜこのような結論になるのかというと、「解雇せざるを得なかった」「懲戒処分をする必要性があった」理由を証明する客観的な証拠が残っていないからです。今回は「問題社員」を例として考えます。この「問題社員」という言葉は不適切かと思いますが、①仕事をしない(仕事ができない) ②反抗的な態度が目立つ、といった言動を行う社員を「問題社員」と定義させていただきます。①や②といった問題社員が同じ職場にいたとき、会社は具体的な指導・教育を行う必要性があります。必要な指導・教育を行う中で反抗的な態度をとったり、場合によっては精神疾患に罹患したといった問題に発展する可能性もあります。一方、指導・教育を行ったとしても改善されないケースもあります。「問題言動」に対して「指導・教育」を実施したが、改善されないから「解雇」「懲戒処分」を実行したところ、その妥当性を争われたケースは筆者も経験があります。昨今の労働法改正に伴い、指導・教育の内容や方法によっては「パワハラ」と認定される可能性もあります。それなら指導・教育しなければ問題は発生しないと考えてしまう気持ちもわかりますが、現実的には人材が定着しないなど、問題社員への対応は経営上の問題に発展しかねない大きな問題でもあります。では、どのような対応をすべきなのか。まずは問題言動の事実を記録します。次に、その問題言動に対し会社が必要かつ適正な指導・教育を行う必要があります。口頭での注意から始まり(口頭で注意を行った日付や内容を書面記録する)、それでも改善されない場合には指導書を交付し、それでも改善されないときは懲戒処分を軽い処分から行います。そこまでしても改善されない場合には解雇を選択するという流れが必要です。(スライド②)筆者の経験ではありますが、再三口頭での注意を行ったが改善されず、挙句には「聞いていない!」と反論されたことから指導書を交付するように対応方法を変更しました。しかし、この指導書交付が原因で精神疾患を発症したと労災申請されたという事案があります。「問題がある」ことを客観的な証拠とし会社を守る (前編)      文◎江口俊彦(特定社会保険労務士)労使間トラブルについて具体的な事例どのように対応すべきか確実に証拠を残して会社を守る 22が増加する可能性が高い。・同一労働同一賃金に関する問題も増加する可能性がある。③ ハラスメントなど・ハラスメント問題から労災事案に発展し、問題が大きくなる傾向がある。スライド 1業務支援① 「解雇」や「懲戒処分」の妥当性が問題となるケース・解雇には「普通解雇」と「懲戒解雇」があり、どちらの解雇を選択したのかも重要となる。・人員整理の場合の整理解雇も、人選が争点になることもある。② 賃金の支払いに関する問題・多くは「未払い残業代」の請求であって、今後は時効延長に伴い請求事案労使間トラブルの事例会社の守り方❼Vol.労使間のトラブルから

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