Plus One No.626
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めました。そうしたら、3か月後、本当に自己破産しました。要は私が行ったとき、すでに破産の準備をしていたのです。金融マンにとって大切なのは、お客さまとたくさん顔を合わせて関係性を深めることです。いまほとんどの金融機関が経費削減で店を閉めていますが、これは金融機関側の都合です。店がなくなって、結果的におじいちゃんおばあちゃんが困っています。シシンヨーでは逆に、今後60億円を投じて8店舗を新築移転開店し、駐車場も広げる予定です。我々はお客さま本位の経営を徹底しています。おじいちゃんおばあちゃんの口座に年金が入り「10万もってきてちょうだいや」と電話がかかってくれば、 パーッとお金を届けに行く。こういうことを徹底してやることで、地域での存在意義が高まるのです。一般に、融資は不動産担保に依存する傾向がありますが、どう思いますか?我々は不特定多数のお客さまから預金をお預かりしていますから、大事な預金を守るため、担保を取ることはたしかに重要ではあります。しかし、何よりもまず、お客さまのもとへ足を運び、状況をしっかりと把握し、真にお客さまが求めていることを理解するのが大前提です。この基本を守らずに、不動産担保があるからといって安易に融資すれば、必ず足をすくわれます。実際、担保をたよりに融資するだけなら誰でもできますし、そもそも優良担保は他が持っていってしまって残っていないことが多いのです。当組合では、社長の人間性や、社員教育のあり方、仕事に対する熱意なども重要な判断材料にしています。改正銀行法をどう評価しますか?銀行法の改正により、金融機関が幅広い業種に参入することが可能になりました。すでに多くの金融機関が他業種に手を出していましたが、今後その傾向がより強くなると思われます。しかし、金融機関の本来業務が預金と融資であることを忘れるべきではありません。金融機関がアグリ部門を設けて作物を作ってみたところで、ど素人なのだから本業の農家に勝てるわけがないのです。シシンヨーは創業以来、預金と融資に特化した経営を続けています。投資信託も生命保険も一切やっていません。いまうちの預金総額は急激に伸びていますが、それは他の金融機関からの乗り換えが多いからです。「よそでは投資信託を買え、保険を買えとしつこくセールスされるんじゃ、わしゃしとうないんじゃ」と言ってお客さまはうちにお金を持ってきてくださいます。ですから我々の経営方針はとてもシンプ        徹底してやるということです。ル。あたりまえのことをあたりまえに。普通のことを普通に。ただそれを継続・集中・(次号に続きます)政府の金融方針をどう評価しますか?昨年5月まで続いたゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)の導入は過去にない施策であり、高く評価しています。政府系金融機関だけでなく、地域金融機関にも取り扱いが認められたため、当組合も取引先に迅速に対応することができました。しかし民間におけるゼロゼロ融資はすでに終了しました。コロナが収束したあとも、業種によってはすぐに経営状況が回復しない可能性があるので、今後もさまざまな支援策を打ちだす必要があると思います。33(やまもと あきひろ)山口県宇部市出身。専修大卒。1968年広島市信用組合入組。支店長や本店営業部長、専務理事などを経て、2005年から理事長を務める。シシンヨーで実に54年にわたり、仕事一筋の日々を送ってきた。中学高校時代は野球少年で、今も広島カープの始球式に登板する。著書に『足で稼ぐ「現場主義」経営 頼れるシシンヨーが真骨頂』(きんざい)。山本明弘

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