Plus One No.626
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法人化したことで後継者を考えるように信頼性の構築を何よりも重視している。その結果、顧客に新規は少なく、独立前から付き合いのある業者からの受注が事業の柱となっている。「大切にしているのは、ごまかさず、素直に向き合うことで〝間違いのない仕事をする〟ことです。小さな信頼の積み重ねが、末永く事業を支え続けてくれると信じています」そんな松木さんのモチベーションを支えているのは趣味のサーフィンだ。休日には全国の海を巡り、全国大会に出場するほどの腕前だという。サーフィンの話になると、真剣な表情が途端にほころぶ。週末を楽しみに仕事に邁進するのだという。「サーフィン仲間から仕事の依頼を受けることもあります。職人の仕事は人との繋がりから生まれるんですよね」週末の趣味は、営業活動も兼ねているようだ。独立して九年間、個人事業主として職人を続けてきた松木さんは、昨年六月に法人化した。きっかけはティグレ担当者からの助言だった。将来に不安を感じたとき、組織化して体制を整えることを勧められ法人化を決意した。「それまでは人の入れ替わりが多かったり、募集しても人が集まらなかったりなど採用に大きな課題がありました。ところが法人化した途端に二人の採用が確定し、さらに紹介の話もあるほどです」過去に退職した職人は、新たな職場に法人を選んでいたのだという。採用だけでなく、元請業者との信頼も築きやすくなった点もメリットだ。法人化して変化したのは採用や受注だけではない。個人事業主の時には考えていなかった「事業継承」に関心を持つようになった。„エキセンプレス〟という手回しで金属の折り曲げ加工を行なう大型の機械や、金属切断機である„シャーリング〟を駆使してゼロから加工製品を作ることができる板金職人はそう多くない。技術を伝承し、エムスチールだからこそ叶えられる顧客の要望に対応できる人材が必要とされている。秀でた職人というと仕事の生産性や技術力の高さが着目されがちだが、松木さんが必要とする人材像はどうだろうか。「職人に必要な素質は、誰とでも仲良くなれることや、笑顔で話ができることなどの〝コミュニケーション能力〟だと考えています。これができれば仕事が続けられて、経験を積むことができる。技術は後から付いてきます」板金技術者が独立できるようになるまでには、十年の修行期間が必要だという。松木さんの旅路はまだ始まったばかりだ。株式会社エムスチール一枚の銅板から作られた茶室の水屋は、松木さんにとってもチャレンジングな製作物29先代から受け継いだ“シャーリング”(手前)と新規導入した“エキセンプレス”(奥)事業内容/建築板金〒177-0031東京都練馬区三原台2-18-4tel:03-6904-4721 fax:03-6904-4751趣味のサーフィンが仕事のモチベーションに

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