Plus One No.626
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大企業が望む中小企業に変えさせたい自民政策変化を先取りする気概を持つことが大切平感」をなくすために当然やるべきことであって、分配とは関係ありません。では、岸田さんの言う分配の原資は何か?それは、経済が成長した分の果実を低所得者層に分配していくということらしい。でも、成長が前提なのに、成長について何も言わなくなりました。成長策がないのです。原資がなければ分配も難しいことは明らかでしょう。そうした中で、今年の中小企業の展望を考えてみます。中小企業は大企業から仕事をもらっている下請けや部品メーカーが多い。だから、大企業が望むような企業に変えていこうというのが、安倍・菅・岸田政権が目指すところです。美辞麗句で飾れば「生産性の向上」であり、要するに「取引単価を下げろ」と言っているに等しい。それがスムーズに進むように予算をつけていくことで、大企業に都合のよい中小企業にモデルチェンジしていこうというのが自民党の中小企業政策なのです。筆者がそれに改めて気づいたのは、デービッド・アトキンソン氏とテレビの討論番組に出演して、中小企業経営者のインタビュービデオが出た時です。その経営者の机に書類や伝票が山のように積まれたシーンを見て、「だから日本の中小企業はダメなんだ。書類作業などデジタル化して、経営者は新製品開発や顧客開拓に努めるべきだ」と、彼は言うのです。確かにデジタル化など遅れている部分もありますが、生産性向上のメリットは、中小企業を大企業の要望に応えられる会社にすること。なぜなら大企業が低コスト体質なのに、中小企業が高コスト体質で放置されていると、大企業も競争力を失ってしまうからです。でも、中小企業には中小企業ならではのやり方があります。すべてを把握して隅々まで目を行き届かせておかないと、経営判断がいち早くできないなど、今のやり方がベストかもしれません。それを考慮せずに効率化だけを求めるのは、大企業の思い通りになるようにしたいからでしょう。大企業の本来の姿は、製品価格をダ          までの生産構造の中で、それに合うよンピングに近いかたちで下げていくのではなく、適正利潤を上げられるような製品やマーケットを開拓することです。適正利潤が得られれば、部品も適正な単価になるのです。だから、これうな中小企業に変えていくのではなく、彼らが持っている技術力や品質力が適切に評価され、その技術力に見合った賃金が払えるような仕組みを作っていくことが政府の役割だと感じます。今、産業構造の転換が進んでいます。いちばん顕著な例は自動車のEV化です。電気自動車になった時、多くの部品メーカーが必要なくなると言われ、そのため自動車産業全体がEV化に対してネガティブに反応しています。でも、こんなエピソードがあります。トヨタ自動車を支えている中小部品メーカーの多くはトヨタ自動車の前身だった豊田自動織機が機織り機を作っていた時代から下請けをやっていました。繊維産業全盛で部品メーカーも利益を上げ、資金を蓄積できたので、その後、豊田が自動車メーカーへと大きく方向転換した時に、蓄えていたお金を先行投資して自動車部品メーカーに生まれ変わり、再び大きく成長していったのです。また、EV化は車体に鉄ではなく、軽くて強い炭素繊維などの新素材が使われるようになり、その加工には従来の加工機械とは全く異なる新技術が必要です。そこで、まだ注文が来る前から、いつでも部品生産に応えられるよう、加工技術の取得に努めている三次・四次下請けの中小企業もあり、こうした企業がこれから生き残っていくのだと思います。大企業も含めて、企業は今起きている変化にコストで対応しようとします。だから、変化に対してネガティブに反応してしまうのです。逆に、変化は自らの競争力を高めるチャンスだと捉えれば、中小企業がこれからも活躍していくことができるはず。政府はその力を発揮できるような産業政策を採っていくべきでしょう。13須田 慎一郎 (すだ しんいちろう)経済ジャーナリスト。1961年東京都生まれ。日本大学経済学部卒。経済紙の記者を経てフリー・ジャーナリストに。『夕刊フジ』『週刊ポスト』『週刊新潮』などで執筆活動を続けるかたわら、テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」、読売テレビ「そこまで言って委員会NP」、ニッポン放送「須田慎一郎のスクープ ニュース オンライン」 他、テレビ、ラジオの番組、ネット配信の「虎ノ門ニュース」等で活躍中。2007〜2012年まで内閣府の多重債務者対策本部有識者会議委員を務める。政界、官界、財界での豊富な人脈をもとに、数々のスクープを連発している。著書多数。近著に『なぜカリスマ経営者は「犯罪者」にされたのか?』(イースト新書)、『コロナ後の日本経済』(MdN新書)。YouTube「ニューソク通信社」運営。

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