Plusone No.623
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配偶者居住権は、配偶者が故人の自宅の所有権を相続しなくても引き続きその自宅に住むことができる権利だ。2020年4月に施行された民法改正で創設されたものだが、相続税の節税に活用できる点でも注目されている。夫婦が同居していて相続財産に自宅不動産が含まれる場合、通常は配偶者が自宅不動産を相続する。従来、子どもなどに対する法定相続分を考慮して相続の割合を決めると、配偶者が自宅を相続した結果、取得できる金銭債権(お金や株式など)が相対的に少なくなってしまい、住む場所は確保できても生活資金が足りなくなることが実際に起きていた。今回の民法改正では、自宅不動産の権利を「所有権」と「配偶者居住権」に分け、「配偶者居住権」を妻が取得することで、住む場所を確保しつつ、金銭債権をより多く相続できるようになった。配偶者が年を取るほど相続する利用権の価値が下がり、その分だけ金銭債権を相続させることができる。この配偶者居住権をうまく利用して相続税を節税することができる。父親を亡くしたAさんを例にとって紹介する。父親の財産は預金3000万円と自宅(土地評価額1億円、建物評価額1000万円)。また母親は預金1000万円を持っていた。これらの財産を、配偶者居住権なしで母親、Aさんで7000万円ずつ相続したとすると、母親は配偶者控除があるため相続税は発生しない。一方Aさんは539万円の相続税が発生する。ところがその後母親も亡くなった。母親の財産は8000万円あるためAさんはさらに相続税680万円を負担することになり、父親が亡くなった時の相続分と合わせると1219万円にもなる。ところが配偶者居住権を利用したとする。父親が亡くなった時に、配偶者である母親が配偶者居住権を、息子のAさんが所有権を相続する(配偶者居住権と所有権の割合は、配偶者の年齢、相続税評価額をもとに計算)ことで相続税が大きく抑えられるのだ。Aさんのケースでは、土地については配偶者居住権(4000万円)、所有権(6000万円)、建物については配偶者居住権(600万円)、所有権(400万円)となり、父親からAさんへの1次相続では596万円と相続税は若干増えてしまうのだが、2次相続では母親の利用権が消滅し、母親が父親から相続した2400万円と持っていた預金1000万円のみの相続となる。合計した3400万円は基礎控除(3600万円以下)なので相続税はゼロになる。1次、2次相続の合計でみれば、配偶者所有権なしの場合の1219万円から596万円になり相続税はほぼ半額に抑えられたことになる。配偶者居住権を設定するには、遺言書の書き換えが必要だ。例えば、通常の遺言書では「自宅を相続させる」と書くところを「遺贈する」という言葉を使わなければならない。そして、子どもは法務局で自宅の所有権移転登記を行い、その後、配偶者と子どもの共同申請で利用権の設定登記を行う。法務局の登記手続き案内に相談することもできるし、遺言書作成時点で司法書士などに遺言執行書を依頼しておけば、名義変更手続きを代行してもらうこともできる。相続税節税に活用できる配偶者居住権住む場所も生活資金も確保するために相続税がほぼ半額になるケースも遺言書の書き換えが必要相続・節税対策12NEWS 02NEWS 04配偶者居住権を利用し節税を

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